全身性エリテマトーデス
SLEとは
SLEはSystemic Lupus Erythematosusの略称で、Systemicといわれるように、全身のさまざまな部位に症状が出現する膠原病の一つです。Lupusとはラテン語で「狼」を意味し、 Lupus Erythematosusとは、まるで狼に噛まれたような赤い紅斑(今の日本では狼に噛まれることはほぼありませんが・・)が皮膚に現れることから名付けれられました。はっきりとした原因はまだわかっていませんが、身体の内部の免疫システムの異常により、発熱、口内炎、皮疹などの症状に加え、肺、腎臓、腸管、中枢神経、関節などの臓器に異常が出現してきます。
SLEの疫学・原因
難病情報センターの統計によると、日本ではSLE患者さまは約6~10万人程おられると考えられています。SLE患者さまの男女比は1:9で、圧倒的に女性に多くなります。SLEを発症する年齢は若年女性(20-40歳代)に多いですが、高齢の方でも発症することがあります。
SLEの原因は現在のところ不明です。ただ、複数の因子がきっかけとなり発症する可能性は指摘されています。
- SLEの原因となる可能性のある因子
- ● 紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)
- ● 感染症(ウイルス感染など)
- ● 外傷(怪我)
- ● 外科手術
- ● 妊娠・出産
- ● 薬
SLEの症状
SLEの患者さまによって見られる症状はさまざまですが、だるさや発熱、関節症状、発疹血球減少などは多くのSLE患者さまに共通して見られます。その他、腎障害、消化管症状(下痢、腹痛)、中枢神経症状(意識障害)などは、SLE患者さまによってどの症状が強く現れるかは個人差があります。
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全身症状
- 多くのSLE患者さまに共通して、だるさ、食欲低下、疲労感、体重減少、発熱などを認めることがあります。
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皮膚症状
- ほっぺたから鼻の横にかけて現れる、まるで蝶が羽を広げているように見える蝶型紅斑(バタフライ・ラッシュ)紅斑が有名です。口内炎もよく生じ、特に痛みを感じない無痛性口内炎を硬口蓋(口の上の壁)に発症することが良くあります。この所見はご自身では気づかれず、医師の診察で初めて気づかれることが多いです。また紫外線にあたると、皮膚が赤く腫れ、発疹が出やすくなる日光過敏症を起こすことがあります。そのため、SLE患者さまには直射日光に当たり過ぎないように外来ではよくお話します。その他にも、レイノー症状、脱毛、円板状皮疹や環状紅斑、凍瘡様皮疹、網状皮班(リベドー)など、さまざまな皮膚症状が生じることがあります。
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関節症状
- SLEの発症時から手指や肘、肩、膝などの全身の関節に痛みを起こすことが多いです。関節リウマチなどの関節炎は関節の破壊を起こしますが、SLEの関節炎は基本的に関節の破壊は起こしにくいと言われています。ただ、関節の周りの組織に異常が生じて指の関節の脱臼を生じるJaccoud関節症が起こることがあり、これにより手の変形が生じることがあります。
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臓器障害
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目 眼底に出血や軟性白斑といった異常が現れて、視力低下を生じることがあります。そのため、SLEの患者さまは定期的に眼科受診をしていただくことが望ましいです。 肺 胸膜炎や肺梗塞を起こして、突然胸に痛みがでたり、胸に水が溜まることがあります。また、痰に血が混じる肺胞出血や、肺動脈という血管の壁が厚くなり肺高血圧症を生じることがあります。胸部レントゲンやCTの検査が必要なことがあります。 中枢神経 けいれんや意識障害などをきたすCNSループスを起こすことがあり、疑わしい場合には頭のCTやMRI、髄液検査などを行います。 心臓 動悸や胸の痛みを生じる心内膜炎、心筋炎といった心臓の病気を起こすことがあり、心電図や心臓エコー検査を行って調べます。 腎臓 血尿やタンパク尿が出てくるループス腎炎を起こすことがあり、尿検査で異常がある場合には腎生検(腎臓の組織をとって顕微鏡で詳しく診る検査)を行って詳しく調べます。 肝臓 しばしば肝障害を生じることがあります。別の肝臓の病気(原発胆汁性肝硬変症や自己免疫性肝炎など)を合併していることもあるので、肝臓機能に異常がある場合は、採血や腹部エコー検査で調べます。 腸管 腹痛、下痢などを生じるループス腸炎を起こすことがあり、腹部エコーや腹部CT、大腸カメラなどで原因を調べます。 膀胱 頻尿を生じるループス膀胱炎を起こすことがあり、泌尿器科に受診していただくことがあります。
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SLEの検査
- 採血検査:SLEに特徴的な抗体などを含めて評価します
- 尿定性・沈査、24時間蓄尿検査:血尿・タンパク尿などの評価
- 心電図、心Echo
- 胸部レントゲン/胸部CT
- 腎臓内科受診:腎生検の依頼など
- 皮膚科受診
- 眼科受診
- 脳MRI、SPECT:CNSループスで脳血流分異常あり
- 髄液検査:CNSループスを疑った時など
当院の外来でSLEを疑った場合には、SLEに特異的な抗体検査などの採血、尿検査、胸部レントゲン検査などを行い、全身の評価を行います。そこで尚、SLEの疑いが濃厚の場合には、近隣の大病院(大学病院、赤十字病院等)に紹介させていただき、上記のようなさらに詳しい検査を行っていただきます。
診断基準
SLEを疑った場合、口腔粘膜や皮膚症状といった身体所見に加えて、採血、尿検査の結果を総合的に判断して診断を行っていきます。systemic lupus international collaborating clinics(SLICC)が2012年に分類基準を提唱し、現在SLEの診断をする際によく使用されています。
SLEの活動性の評価
SLEがどれくらい強くでているかの指標として、SLEDAIを用いることがあります。 これは、発熱の有無に加えて、脳神経症状、血管症状、筋・皮膚症状、腎臓病変、心臓病変、採血検査異常値を総合的にスコア化し、点数化したものです。
定期的にSLEDAI値がどのくらいかを計算することで、現在の患者さまのSLEの状態がどのくらいなのか数値化して評価することができます。
SLEの治療
- 副腎皮質ステロイド
- 免疫抑制薬
- ヒドロキシクロロキン
- 抗血小板剤、抗凝固剤
- 血液透析
- その他、各症状に対する対症療法
SLEの病状に応じて治療薬は変わってきますが、基本的にはステロイドと免疫抑制剤が中心になります。また病気により体内で血が固まりやすい傾向のある患者さまには抗血小板剤や抗凝固剤を内服してもらいます。腎臓の状態や中枢神経症状により、血液透析を行うこともあります。
クリニックの外来では、SLEの症状の悪化や合併症の出現、採血検査結果に悪化がないか等を診察し、少しずつステロイドを減量していきながら経過観察していきます。