ステロイド
ステロイドの歴史ですが、1932年、Cushingが体内で作られるステロイド(グルココルチコイド)の量と骨粗鬆症の関係についてはじめて指摘し、それ以降、体中でのステロイドの重要性について考えられるようになりました。
その後、1948年にHench博士がコルチゾンを寝たきりの若年関節リウマチ患者さまに投与し、劇的な効果が認められ、ノーベル医学賞受賞に至りました。一方で、1980年代に入りステロイドの副作用にも注目が集まるようになりました。
ステロイドは強力な抗炎症作用により痛みや腫れを抑えると同時に、抗免疫作用により免疫抑制状態(非常に感染しやすい状態)を生み出します。またステロイドは身体の様々な代謝に影響を与えることも報告されています。そのため、ステロイド投与に伴って劇的な効果が得られる一方、さまざまな副作用の出現に注意が必要となります。
ステロイド内服時のお願い
- ステロイドを突然中止すると、持病の膠原病が急激に悪化したり、ステロイド離脱症候群をきたすことがあります。ステロイドの自己中断は決してしないでください。
- ステロイド使用中に風邪を引いた場合も、ステロイド減量や中断はしないでください。感染症発症時には、身体が消耗するため、これまで以上にステロイドが必要な場合もありますので、速やかに主治医にご相談ください。
- 高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病が悪化しやすいので、食べ過ぎや間食にご注意ください。
- ステロイドを減量した場合には、減量してから数日は激しい運動などは避けるようにしてください。減量後に一時的にステロイド不足に陥っている可能性があるからです。
ステロイドの副作用
ステロイド副作用の出現タイミング
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高血糖
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経口もしくは点滴のステロイドを使用することにより、かなりの確率で高血糖になります。
そのため、ステロイド投与前に糖尿病および糖尿病に伴う合併症(神経、眼、腎臓、血管など)の評価を行います。また、ステロイド開始と同時に血糖の変化を注意していきます。ステロイドによる糖尿病の特徴として、食後の血糖値が非常に高くなりやすく、空腹時の血糖値で糖尿病の評価がしにくくなります。
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経口もしくは点滴のステロイドを使用することにより、かなりの確率で高血糖になります。
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不整脈
- ステロイド投与に伴い、不整脈が出現することがあります。そのため、ステロイド開始前に必ず心電図を撮影し、正常時の心電図を評価します。
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高血圧
- ステロイドのミネラルコルチコイドという作用により、腎臓からNaが再吸収され、それに伴い高血圧を生じることがあります。必要な場合にはステロイドに降圧剤を併用することもあります。
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高脂血症
- ステロイド内服患者さまの半数以上に高脂血症を認めると言われています。ステロイドの影響により体内での脂質の代謝に異常をきたし、高脂血症が発症します。また、ステロイドの影響により食欲が増進し、体重が増加することで肥満になり、高脂血症が悪化するとも言われています。
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不眠
- ステロイド投与後、多くの患者さまに不眠を生じることがあります。特に夕方に内服することで不眠が出現しやすくなりますので、ステロイド内服は朝や昼を中心に行っていただくことが多くなります。それでも不眠が継続する場合には、睡眠薬などを調整していきます。
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大腿骨頭壊死
- ステロイドパルス療法を行った場合や、ステロイドを中等量以上内服している場合に、大腿骨の骨頭(股関節の付け根の部分)に突然痛みを生じることがあります。MRI検査等で調べると、大腿骨頭が壊死しており、その影響により痛みが生じていることが分かります。症状や壊死が強い場合には、手術を行って大腿骨頭を人工関節に置換することもあります。
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骨粗鬆症
- ステロイドにより骨の代謝が影響を受け、骨粗鬆症が発症しやすくなります。そのため、ステロイドを長期間使用される場合には、骨密度検査を行い、YAM値(若年成人の骨密度と比較して現在の骨密度がどのくらいかを示す指標)という値を評価します。この値が低い場合には、骨粗鬆症の治療を同時並行で行っていきます。特に閉経後の女性では、ステロイドを使用した場合には骨粗鬆症になる可能性が高くなるため、注意して評価を行います。
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満月様顔貌
- ステロイドに伴う脂質代謝の異常や、食欲亢進のため、顔がむくんでいるように見える満月様顔貌になる方がおられます。プレドニゾロンの内服量が15mg/日以下になってくると徐々に改善し、5mg/日程度まで減ると消失することが多いです。
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緑内障、白内障
- ステロイドの影響により、緑内障や白内障を発症することがあります。そのため、ステロイドを長期間使用する場合には、開始前後に眼科を受診していただき、現在の眼の状態を評価していただくようにしています。
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消化性潰瘍
- 胃や十二指腸に潰瘍が出現した場合に、ステロイドの影響で潰瘍の治癒が遅れることがあります。ステロイド自体で消化性潰瘍を誘発する可能性はそれほど高くないとの報告もありますが、原則ステロイド使用中の患者さまには胃薬を併用するようにしています。
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ステロイドミオパチー
- ステロイドを中等量以上開始してから1か月前後に、手足の筋力低下が生じることがあります。これはステロイドの副作用による筋肉の症状(ミオパチーと呼びます)で、ステロイドを減量していくことで改善していきます。
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ステロイド精神症状
- ステロイドを中等量以上内服すると、精神症状(躁症状、うつ症状など)が出現することがあります。特にSLEの患者さまでは、SLE自体に精神症状が出現する(CNSループスと呼びます)ことがあるため、この区別が治療方針として重要になります。
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皮膚症状(紫斑、にきびなど)
- ステロイド内服に伴い、毛細血管の壁がもろくなり、皮膚に紫斑(紫色の皮疹)が出現することがあります。また、にきびなどが出現しやすくなることもあり、症状が強い場合には軟膏などで対応していきます。
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ステロイド離脱症候群
- 普段、副腎という臓器からおおよそプレドニゾロンで5㎎/日程度のステロイドが分泌されています。しかし、長期間ステロイドを内服することにより、副腎がステロイドの分泌をしなくなります。この状態で突然ステロイドの内服を中断したり、ステロイド不足に陥る(急速な減量や感染症など)ことで、ステロイド離脱症候群という状態になることがあります。これは、発熱やだるさ、関節痛、頭痛など、インフルエンザに罹ったときのような症状が出現することで、必要なステロイド量を補充することで消失します。
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感染症
- ステロイドで最も注意が必要な副作用の一つが感染症です。ステロイドの量が多いほど、感染率が上がると言われております。特に、ニューモシスチス肺炎と呼ばれる感染症を起こすことが多いため、ST合剤という種類の抗生剤をステロイドと併用で内服していただくことがあります。また、長期間のステロイド内服を開始する前には、B型肝炎、C型肝炎、結核の事前検査を必ず行い、後からこれらの病期が現れてこないよう注意して経過観察をしていきます。