脂質異常症
脂質異常症とは?
脂質異常症(いわゆる高脂血症)とは、血液の中で悪玉コレステロール(LDL、TG)の上昇もしくは、善玉コレステロール(HDL)の低下を生じていることで、長期間この状態が継続することで、全身に様々な合併症を引き起こすことになります。
脂質異常症の診断基準
10時間以上絶食をして、「空腹時」で採血して測定した値で、添付の表に脂質異常症の診断基準を示します。採血前に水やお茶などのカロリーが含まれない水分摂取をしていても採血結果に問題はありません。
Non-HDLコレステロールについて
Non-HDLコレステロールは、「従来のLDLにVLDLを加えた悪玉コレステロール」と考えられます。
LDLよりも循環器疾患のリスクを測る指標として有用であるという報告もあり、また食後採血時やTG高値(400以上など)時の評価に用いることができ、近年注目されています。
脂質異常症の原因
- 食生活の乱れ、肥満
- 飲酒
- 薬剤性
- 続発性
脂質異常症が生じる原因としては、食生活の乱れや肥満、飲酒が挙げられます。薬剤性では、一部の利尿剤やβ遮断薬、ステロイド内服等により脂質異常症を発症することがあります。また、糖尿病や甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、原発性胆汁性胆管炎などの病気により続発性(2次性)の高脂血症を生じることがあり、診察時にはこれらの鑑別が重要になります。
脂質異常症の合併症
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
血液中で脂質異常が長期間継続すると動脈硬化が進行し、冠動脈の狭窄を呈することで狭心症や心筋梗塞を発症リスクが上昇します。また、脳血管の動脈硬化も同様に進行し、脳梗塞が発症することがあります。
冠動脈疾患の予測スコア(吹田スコア)
当院の外来で高脂血症の方を診察する際には、「吹田スコア」を用いて患者さまのリスクの評価をしています。このスコアを用いることで、「10年以内の冠動脈疾患の発症確率」を数値化することができます。冠動脈疾患とは、狭心症や心筋梗塞などの病気のことです。
吹田スコアの得点により、それぞれの患者さまの状態を「低・中・高リスク」のどれかに分類し、それぞれで目標のLDL管理値を決めていきます。これにより、たとえばLDL値が160以上あっても薬物治療を開始せずに食事療法のみで経過をみることもありますし、LDL値が120-140以下であっても薬物治療を開始することもあります。
※日本動脈硬化学会のHP上に、吹田スコア、冠動脈疾患発症予測をご自身でも計算できるサイトがあります。
詳しくはこちら
高脂血症のコントロール目標
高脂血症のコントロール目標値は、吹田スコアで「低・中・高リスク」のどれに当てはまるかで変わってきます。それぞれのリスクに合わせて目標値を設定し、治療を行っていきます。
脂質異常症の生活指導・食事療法
- 禁煙
- 減量
- 魚・大豆>肉、乳製品
- 食物繊維(野菜、海藻類、きのこ等)摂取
- 減塩
- アルコール制限
- 運動
高脂血症は動脈硬化により脳梗塞や心筋梗塞のリスクとなるため、同じく動脈硬化を誘発する喫煙は避けるように指導しています。また、メタボリックシンドロームなども動脈硬化の進展にかかわりますので、標準体重を維持するよう減量を勧めています。食事に関しては、飽和脂肪酸を多く含むような肉(特に油ののった肉)や乳製品は控えめにし、タンパク質は大豆(納豆、豆腐など)や魚を中心にするようお勧めしています。また野菜、海藻を増やし、飲酒は控えめにお願いしています。1日30分以上の有酸素運動も効果的です。
当院でよく使用する高脂血症の治療
-
LDL値が高い場合
- スタチン系薬:クレストール®
- 小腸コレステロールトランスポーター阻害剤:ゼチーア®
- 陰イオン交換樹脂:コレバイン®
- プロブコール:プロブコール®
-
TG値が高い場合
- フィブラート系薬:ベサフィブラート®
- 多価不飽和脂肪酸:ロトリガ®
- ニコチン酸誘導体:ユベラ®
脂質異常症の治療は、患者さまの血液中の数値の中で、LDL値が高いのか、TG値が高いのかで治療選択肢が変わってきます。
LDL値が高い場合、まずはスタチン系の内服薬を使用し、改善に乏しい場合には小腸コレステロールトランスポーター阻害剤や陰イオン交換樹脂などを併用します。また高脂血症に伴う黄色腫などを認める方には、プロブコールを使用することもあります。
一方、TG値が高い場合には、まずフィブラート系の内服薬を使用し、効果に応じて多価不飽和脂肪酸やニコチン酸誘導体などを併用することがあります。
腎機能が悪い方や、スタチン系の薬剤との併用をしにくい治療薬もあるので、患者さまの病態ごとに治療選択を適宜調整していきます。
高尿酸血症
高尿酸血症とは?
高尿酸血症とは、血液中の尿酸値が高い状態(7mg/dlを超えるもの)のことです。尿酸値が高い状態が続くと、尿痛風を発症することがあります。痛風発作はその名の通り、風が吹くだけでも痛みが生じるような激痛で、足の親指の付け根に強い痛みや腫れが生じることが有名です。また足の親指以外の関節にも発症することがあり、関節痛の原因として常に念頭に置いておかなければいけない病気です。
高尿酸血症により何が起こるのか?
- 痛風発作
- 慢性腎臓病、尿路結石
- 高血圧
- 糖尿病
- 心血管障害
高尿酸血症により、尿酸結晶が沈着して痛風発作を生じます。また、長期間高尿酸血症が続くと、慢性腎臓病を生じたり、尿路結石の原因となります。
その他にも、尿酸値が高いことと高血圧の発症には関連があることが報告されており、尿酸値が高いほど心血管障害(狭心症や心筋梗塞)による死亡率が上がると言われています。
高尿酸血症の原因
- プリン体摂取
- 尿酸の排泄遅延
高尿酸血症が起こる原因の一つに、プリン体の過剰摂取があります。プリン体を多く含む食品(ビール、エビなど)を過剰に食べることで尿酸値が異常に高くなります。
また、尿酸は通常腎臓から排泄されますが、腎臓機能の低下や一部の薬剤の影響で腎臓からの尿酸の排泄が低下し、それに伴い尿酸値が高くなることもしばしばあります。
痛風の症状
- 関節痛
- 痛風結節
- 腎結石
高尿酸血症により長期間、尿酸値が高い状態が続くと、尿酸が析出して結晶化し、関節に激痛が生じます。特に足の親指の付け根の関節に起こりやすく、あまりの痛みのために一時的に歩けなくなる方もおられます。足の親指以外にも膝関節、肘関節、手指関節など全身の関節に起こることがあります。また痛風の症状として、痛風結節と呼ばれるコブが四肢に出現することもあります。これは尿酸の結晶が沈着したもので、痛風結節自体には痛みはありませんが、腎臓や神経、骨などにも沈着して悪影響を及ぼすこともあります。
高尿酸血症の診断
採血で尿酸値を測定して診断します。痛風発作を生じているときには、尿酸値が正常化することがあり、注意が必要になります。そのため、過去の尿酸の採血結果やこれまでの痛風結節、痛風発作の経験などの問診が大切になります。また、尿酸が高くなる原因として、遺伝性の病気や悪性腫瘍、甲状腺機能低下症などから生じることもあり、診察および採血を含めて検査する場合があります。また薬剤による尿酸値上昇にも注意する必要があります。
高尿酸血症と間違えやすい病気
- 外傷
- 偽痛風
- 化膿性関節炎
- 変形性関節症
- 関節リウマチ
- 脊椎関節症
高尿酸血症のコントロール目標
- 尿酸値:6mg/dk以下
痛風発作を繰り返す方や痛風結節がある方では、再発を抑えるために、尿酸値をできる限り6mg/dl以下に維持することが望ましいです。また、症状はないけれど尿酸値だけ高い方では、8~9mg/dlを超える場合には将来のリスク(腎障害、高血圧、心血管障害など)を考えて、治療を開始することがあります。
当院での高尿酸血症の治療
- 尿酸生成抑制薬
- 尿酸排泄促進薬
高尿酸血症の治療として、当院では尿酸生成抑制薬の内服で治療を開始しています。尿酸生成抑制薬で副作用が出現したり、効果が不十分な場合には尿酸排泄促進薬を追加することもありますが、その場合には、水分摂取を十分にしていただく必要があります。
腎機能障害のある方では、尿酸生成抑制剤を使用します。
痛風発作の治療
- 鎮痛剤
- コルヒチン
- ステロイド内服
痛風発作は激痛のため、いかに症状を抑えるかが大切です。患者さまの状態により「鎮痛剤」「コルヒチン」「ステロイド」の内服を調整して治療を行います。
※それぞれの内服のコツを表にする
高尿酸血症の生活指導
- 肥満の解消
- 飲酒制限
- 食事指導
高尿酸血症の患者さまには、まず肥満を解消することを勧めています。BMIや体脂肪率の上昇により、尿酸値の値が高くなるため、適正体重になるよう外来で指導を行っています。
飲酒も、アルコール量が多いほど痛風発作の発症リスクが高まるため、アルコールの過剰摂取を控えるように指導しています。アルコールの中でも特にビールが痛風リスクを高めることが分かっており、多くても1日350-500mlまでの摂取量にするようお勧めしています。また、日本酒であれば1合まで、ウイスキーであれば60mlまで、ワインであれば148mlまでの飲酒であれば、血清尿酸値は上がりにくいと言われています。
食事にプリン体が多く含まれていると、痛風発作の再発リスクが上がるため、できる限り1日のプリン体の摂取量を400mg以内に抑えるよう、指導しています。甘味飲料や果物ジュースは含まれている果糖成分が尿酸値を上昇させるため、控えるようお伝えしています。また、果物、野菜、茶色い炭水化物、ナッツ類、豆類などを積極的にとることを勧め、タンパク質では肉より魚を摂取することを推奨しています。